題目
脳における言語と社会認知の接点
 
幕内充(国立障害者リハビリテーションセンター高次脳機能障害研究室長)
 
要旨
言語はコミュニケーションの為に生まれたのか、あるいは思考の為に生まれたのか?ASDの言語の問題を考察することは言語と社会認知の接点について考えることを促す。まず、言語を包含する上位カテゴリーとしての記号という概念を導入し、記号の統語論・意味論・語用論を定義する。そしてそこから直ちに得られるASDの言語に関する予測について触れ、記号というヒトのみにある認知能力の神経基盤について考える。次にASDについての世界で初めての報告であるカナー(1943)の症例の言語の特徴について記号論的な考察を行う。最後に言語の脳メカニズムを見直し、ウェルニッケ野だけでなく、社会認知に関与する頭頂側頭接合部(TPJ) 等を含む、より広い後方言語野を設定することで言語と社会認知の接続を想定し、語用論的理解までを射程におく新しい言語の脳メカニズムを提案する。